夢の中のリアルなウソ記憶

ふだん覚醒時に我々は過去の記憶を参照しながら生活している。たとえば、今日クライアントA社から仕事の依頼を受けたとする。その場合「ああ、これは以前にB社から受けた仕事とほぼ同じだなぁ。そういえばB社の鈴木さんは良い人だったなぁ、元気かなぁ」といった具合に。ほっといても過去の記憶が出てくるし、この時に参照されるのは当然のことながら現実に起きたことの記憶だ。

しかしこれが眠っている最中の夢の場合は少し話が違ってくる。

自分は夢の内容を記録しておく「夢日記」を数年間つけているのだが、それによると夢の中で参照される過去の記憶は、その夢の中ででっちあげられたウソの記憶である場合が非常に多い。これがどの程度一般的な現象なのかはわからないが、少なくとも僕の場合は、夢という作り物の中の世界で作り物の記憶を回想することが多い*1のだ。

さきほど、覚醒時に参照されるのは「現実に起きたことの記憶」と書いたが、実際には覚醒時でも過去の記憶なんてものは劣化や汚染・混濁が起きていて、過去に体験した現実とぴったり同じというわけではない。しかし夢の中で参照されるウソ記憶はそういうレベルではなく完全に創作だ。

たとえばある日の夢ではこんな感じだった。

職場にライフルを持った強盗が入ってきて暴れだし、俺と同僚数人はなんとか屋上まで逃げてきた。そこにはヘリコプターがある。これに乗って逃げられれば助かるけど、どうやって飛ばせばいいのか。

こういうスリリングなシーンだ。ここで(夢の中の)自分にはある記憶がよみがえる

あれ?そういば俺ってヘリコプターを操縦をしたことがあったような…。あれはいつだったかなぁ、学生時代にリゾートホテルでバイトしたときだったっけ?あー、そういえば、山の上から荷物を運ばないといけないから、毎日ヘリコプターの運転してたわ!結構得意だったわヘリの操縦!

と、「過去の経験」を思い出し、そして見事な操縦で脱出するのであった。

ちなみに、現実において自分はヘリコプターの操縦をした経験などない。たいていの一般的な日本人はヘリコプターの操縦をしたことがないと思うが、自分もそんな特殊な経験はない。このウソ記憶の中で現実に経験したことがあるのは「学生時代にリゾートホテルでバイト」という部分のみである。

それなのに、この日は目が覚めたあとも夢の中の「学生時代にヘリコプターの操縦をしていた」という記憶があまりにもリアルで、現実の記憶なのか夢の中のウソ記憶なのか、起きてから30分くらい悩んでしまった。

忘れないように寝起きに夢日記を書くために夢の内容をまとめるのだが、いくら半分寝ぼけた状態の頭でも、目が覚めてから夢が夢と認識できないケースはない。さっきの例はちょっと突飛な内容の夢だったが、どんなにリアルな内容の夢でも、目が覚めればさっきまで見ていたのは夢だと認識できる。だが、夢の中の記憶—回想シーンと言った方が的確か—これは少々突飛な内容でも、寝起きの半覚醒状態だと、それが現実に体験したことの記憶なのか、全くのデタラメなのか区別が付かないことがある。頻度としては半年に1回くらいは目が覚めてから悩む。

ヘリコプターの操縦という、普通は一度体験したら死ぬまで忘れないような種類のイベントでも、目が覚めてからしばらくは区別がつかないというのは、なかなかに興味深いし楽しい。

まあでも、夢の中の回想シーンで一番ありがちなパターンは、メインのストーリーそっちのけで回想の方の世界に夢がシフトしてしまうパターンだ。これがTVアニメだったら「回想シーン長すぎ!」「つーか、本筋に戻らずに回想シーンで終わるのかよ!」と苦情殺到でクソアニメ認定確実である。

*1:それ以外の普通の過去参照は印象に残らなくて朝起きた段階で忘れてる可能性もある。ストーリー上重要じゃない場合も忘れると思う